養生訓292(第六巻 慎病)
夏月(かげつ)、古き井(ふるきいど)、深き穴の中に人を入 (いるる) べからず。毒気(どっけ)多し。古井(ふるいど)には先(ま)ず、鶏(にわとり)の毛を入(いれ)て、毛、舞(ま)ひ下(さが)りがたきは、是(これ)毒あり、入 (いる)べからず。火をもやして、入れて後、入(いる)べし。又、醋(す)を熱くわかして、多く井(いど)に入(いれ)て後、人(ひと)入(いる)べし。夏至(げし)に井(いど)をさらえ、水を改(あらた)むべし。秋は、夏の間(あいだ)肌(はだえ)開け、七八月は、残暑(ざんしょ)も猶(なお)烈(はげ)しければ、腠理(そうり)いまだとちず。表気(ひょうき)いまだ堅(かた)からざるに、秋風(あきかぜ)すでにいたりぬれば、感じてやぶられやすし。慎(つつし)んで、風涼(ふうりょう)にあたり過(すご)すべからず。病ある人は、八月、残暑(ざんしょ)退(しりぞ)きて後、所々(しょしょ)に灸(きゅう)して風邪(ふうじゃ)をふせぎ、陽(よう)を助(たす)けて痰咳(たんせき)のうれひをまぬがるべし。
養生訓(意訳)
夏は、皮膚が開いて荒れています。治らないうちに秋風にあたり過ぎれば体調を崩しやすいです。
通解
「夏月には、古くて深い井戸や穴の中に人を入れるべきではありません。そこには毒気が多く存在します。古井には、最初に鶏の毛を入れて、毛が舞い落ちにくい場合は、その井戸には毒があるため、入るべきではありません。火を燃やして中を加熱した後、入るべきです。また、酢を熱く沸かして、多量の井戸に注いだ後に人が入るべきです。夏至の時には井戸を清め、水を入れ替えるべきです。
秋になると、夏の間は肌を露出し、7月と8月は残暑がまだまだ厳しいため、毛穴がまだ閉じていない状態です。表面の気温がまだ冷たくないのに対して、秋風はすでに冷たくなっているため、感じやすくなります。慎重に行動し、風に涼を求め過ぎないようにしましょう。
病気のある人は、8月になり残暑が収まった後、適度に灸を行い、風邪を防ぎ、陽気を助けて痰や咳の症状を軽減するよう心掛けるべきです。