養生訓396(巻第八 灸法)

脾胃虚弱(ひいきょじゃく)にして、食滞(とどこおり)りやすく、泄瀉(せつしゃ)しやすき人は、是(これ)陽気不足なり。殊に灸治(きゅうじ)に宜(よろ)し。火気を以(もって)土気(どき)を補へば、脾胃の陽気発生し、よく、めぐりてさかんになり、食滞らず、食すゝみ、元気ます。毎年二、八月に、天枢(てんすう)、水分、脾兪(ひのゆ)、腰眼(ようがん)、三里を灸すべし。京門(けいもん)、章門(しょうもん)も、かはるがはる灸すべし。脾(ひ)の兪(ゆ)、胃(い)の兪も、かはるがはる灸すべし。天枢(てんすう)は尤(もっとも)しるしあり。脾胃、虚(きょ)し、食滞りやすき人は、毎年二、八月、灸すべし。臍中(さいちゅう)より両旁(りょうぼう)各二寸、又、一寸五分もよし。かはるがはる灸すべし。灸炷(きゅうちゅう)の多少と大小は、その気力(きりょく)に随(したが)ふべし。虚弱の人、老衰の人は、灸、小にして、壮数も、すくなかるべし。天枢 (てんすう) などに灸するに、気、虚弱の人は、一日に一穴(いっけつ)、二日に一穴、四日に両穴、灸すべし。一時に多くして、熱痛を忍ぶべからず。日数をへて、灸してもよし。灸すべき所をゑらんで、要穴(ようけつ)に灸すべし。みだりに処、多く灸せば、気血をへらさん。一切(いっさい)の頓死、或(あるいは)夜(よる)厭(おそはれ)死したるにも、足の大指の爪の甲の内、爪を去(さる)事、韮葉(にらは)ほど前に、五壮か七壮、灸すべし。

通解

脾胃が虚弱で食べ物が消化されにくく、下痢しやすい人は陽気不足です。特に灸治療が適しています。火気を使って土気を補うことで、脾胃の陽気が発生し、良く循環して食べ物が滞らず、食欲も増します。毎年2月と8月には天枢、水分、脾兪、腰眼、三里の穴を灸するべきです。京門や章門もそれぞれ灸すべきです。脾の兪や胃の兪も同様に灸すべきです。特に天枢は重要な指標です。脾胃が虚弱で食べ物が滞りやすい人は、毎年2月と8月に灸を行うべきです。臍の中から両側にそれぞれ2寸、または1寸5分ほどの範囲に灸すべきです。灸炷の量や大きさはその人の気力に応じて調整すべきです。虚弱な人や老衰の人は灸を少なくし、力を入れすぎずに行うべきです。脾胃が虚弱な人は天枢などに灸する場合、一日に1つの穴、または2日に1つの穴、4日に両側の穴を灸するべきです。一度に多くの穴に灸すると熱や痛みが我慢できなくなるため、日数をかけて灸を行うこともあります。灸すべき場所を選び、要穴に灸するべきであり、乱暴に多くの場所に灸すると気血が失われることになります。突然の死や夜間の急死がある場合でも、足の大指の爪の甲の内側や韮葉ほど前に、5壮か7壮の穴を灸すべきです。