養生訓289(第六巻 慎病)
夏は、発生(はっせい)の気(き)いよいよさかんにして、汗もれ、人の肌膚(きふ)大いに開く故(ゆえ)外邪(がいじゃ)入(い)やすし。涼風(りょうふう)に久(ひさ)しくあたるべからず。沐浴(よくもく)の後、風に当るべからず。且(かつ)夏は伏陰(ふくいん)とて、陰気(いんき)かくれて腹中(ふくちゅう)にある故、食物の消化する事おそし。多く飲食すべからず。温(あたたか)なる物を食ひて、脾胃(ひい)をあたゝむべし。冷水を飲べからず。すべて生冷の物をいむ。冷麪(ひやむぎ)多く食ふべからず。虚人(きょじん)は尤(もっとも)泄瀉(せっしゃ)のうれひおそるべし。冷水に浴すべからず。暑(あつき)甚(はなはだし)き時も、冷水を以(もって)面目(かおめ)を洗へば、眼(まなこ)を損(そん)ず。冷水にて、手足洗(あら)ふべからず。睡中(すいちゅう)に、扇(おおぎ)にて、人にあふがしむべからず。風にあたり臥(ふ)べからず。夜、外に臥(ふ)べからず。夜、外に久しく坐(ざ)して、露(つゆ)気にあたるべからず。極暑(ごくしょ)の時も、極(きわめ)て涼(すず)しくすべからず。日に久しくさらせる熱物(あっもの)の上に、坐(ざ)すべからず。
養生訓(意訳)
夏は、暑いので汗が多く出ます。だからと言って、冷たい物を多くの飲んではいけません。お腹が冷えて、胃腸に良くないからです。また、冷水などで身体を冷やすことも避けたが良いでしょう。
通解
夏になると、気が活発になり、人は多く汗をかきます。その結果、肌が大きく開き、外部からの邪気(外邪)が入りやすくなります。長時間涼しい風に当たることも避けるべきです。また、夏は陰の気が隠れて腹の中にあり、食べ物の消化が遅くなるため、過度な飲食は避けるべきです。温かい食べ物を摂り、脾胃(消化器官)を刺激するべきです。冷たい水を飲むことも避けるべきであり、生冷たるものを摂取することも避けるべきです。特に冷たい麺類を多く食べるべきではありません。
虚弱な体質の人は特に、下痢の症状に注意を払うべきです。冷たい水に浸かることも避けるべきです。暑い時でも、冷たい水で顔を洗うと目に損傷を与える可能性があります。冷たい水で手や足を洗うことも避けるべきです。睡眠中に扇風機で風を当てることも避けるべきです。風に当たって横になることも避けるべきです。夜は外で寝るべきではありません。夜間に外で長時間座っていると露気に当たるため避けるべきです。極度の暑さの時でも、極端に涼しい場所に長時間いるべきではありません。日の当たる熱い場所に長時間座るべきではありません。