養生訓157

食は身をやしなふ物なり。身を養ふ物を以、かへつて身をそこなふべからず。故に、凡(およそ)食物は性(せい)よくして、身をやしなふに益ある物をつねにゑらんで食ふべし。益なくして損ある物、味よしとてもくらふべからず。温補(おんほ)して気をふさがざる物は益あり。生冷(せいれい)にして瀉(はき)下し、気をふさぎ、腹はる物、辛(から)くし(て)熱ある物、皆(みな)損(そん)あり。

意訳

食事は身体を維持する働きと楽しみの二つの働きがあります。しかし、楽しんで食べるのが過ぎれば、身を傷める原因にもなります。自分の体調に合わせて、楽しみながら、量と質を日々、選んだほうが良いでしょう。

通解

食べ物は私たちの体を養うものです。身体を健康に保つために適切な食材を摂ることで、体を損なうことは避けられます。したがって、食べ物を選ぶ際には、体を良く保つために役立つ性質のものを選ぶべきです。身体に良い影響を与えない食材や、味が美味しいからといって摂り過ぎるべきではありません。体を温める効果があり、体内の気を活性化させるものは良いものですが、生の食べ物や冷たい食べ物を過度に摂ることは、体内のバランスを崩し、腹部の膨満感や熱を生じることがあります。

気づき

医食同源という言葉があります。これは、古くから中国に伝わる言葉で、体に良い食材を日常的に食べて健康を保てば、特に薬など必要としないという意味だそうです。

私も中国滞在中に、切実に実感した言葉です。冷たい物は控えるとか、習慣として、定着しているようでした。また、初めて食べたヒマワリの種や棗は、ある意味、衝撃でした。

医食同源とは

医食同源(いしょくどうげん)は、中医学や伝統的な東洋医学においての概念であり、「医」と「食」が同じ根源から来ているという考え方を指します。この概念に基づいて、食べ物や食事は健康を維持し、また病気の予防や治療にも寄与するとされています。

具体的には、食物が体に与える影響や性質が、中医学の基本的な理論に合致するとされています。例えば、特定の食材や調理法が五行説(木、火、土、金、水の五つの要素に基づく)や陰陽説に基づくバランスを保ち、臓腑や経絡(気や血液の流れる経路)に良い影響を与えると考えられています。

医食同源の概念では、食べ物は単なる栄養素の供給源だけでなく、体のエネルギーのバランスや調和にも影響を与え、健康を維持する上で欠かせないとされています。この考えに基づいて、特定の症状や体調に合わせた食事療法が提案されることもあります。

総じて、医食同源は食事と健康が密接に関連しており、適切な食事習慣が体調や病気の予防に寄与するという東洋医学の一環として理解されています。

五行説とは

五行説(ごぎょうせつ)は、中国の古代哲学や医学、自然観に基づく概念の一つです。五行説は、宇宙や自然界の現象を五つの基本的な要素または動力(木、火、土、金、水)に分類し、これらが相互に関連しながら変化し合うという考え方です。これらの要素は「五行」と呼ばれ、それぞれが特定の性質や属性、方向、臓腑などに関連付けられています。

以下は、五行の基本的な対応関係です:

木(き): 生(せい) – 木は生命の源であり、成長や発展を象徴します。肝臓に対応しています。

火(か): 成長(せいちょう) – 火はエネルギーと変化を表し、活動や発展を促進します。心臓に対応しています。

土(ど): 定着(ていちゃく) – 土は安定性や基盤を意味し、物事の安定と根付きを表します。脾臓に対応しています。

金(きん): 収束(しゅうそく) – 金は収斂力や結束力を象徴し、物事を結束させる力を持ちます。肺に対応しています。

水(すい): 流動(りゅうどう) – 水は流れる力や変化を示し、柔軟性や変化への適応力を象徴します。腎臓に対応しています。

これらの五行は相互に生成(生ずる)関係と克(こく、相互に制御する)関係を持ち、これが宇宙や自然界のバランスを保ち、変化を生じさせるメカニズムとされています。五行説は、中医学や風水、占いなど様々な分野で応用されており、中国の伝統的な思想体系の一部として重要な位置を占めています。

陰陽説とは
陰陽説(いんようせつ)は、中国の古代哲学であり、自然や宇宙、人体の現象を理解するための基本的な概念の一つです。この概念は、陰と陽と呼ばれる対立する二つの基本的な原則や要素が相互に補完し合い、調和を保ちながら変化するという考え方に基づいています。

以下は、陰陽説の基本的な特徴と対応関係です:

陰(いん):冷、静、消極、闇、受動的な性質を象徴します。
月、夜、女性、水などと関連づけられることがあります。

陽(よう):熱、動、積極、明、能動的な性質を象徴します。太陽、昼、男性、火などと関連づけられることがあります。
陰陽説では、これらの対立する要素が常に変化し、相互に影響しあって調和を取りながら存在しているとされています。
例えば、昼と夜、寒さと暑さ、静と動、などは相互に補完しあい、一方が強まると他方が弱まるといったバランスが重要視されます。

中医学においては、陰陽のバランスが健康を維持するために重要であり、病気や不調は陰陽の不均衡から生じると考えられています。
治療法や食事、運動などが陰陽の調和を促進するために用いられることもあります。

陰陽説はまた、道教や易経など、広く中国の伝統的な思想や文化に影響を与えた概念でありバランスと変化の原則として広く受け入れられています。

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