養生訓119(巻第二総論下)
呼吸(こきゅう)は、人の鼻よりつねに出入る息(いき)也。呼(こ)は出る息也。内気(ないき)をはく也。吸(きゅう)は入る息なり。外気(がいき)をすふ也。呼吸は人の生気(せいき)也。呼吸なければ死す。人の腹中(ふくちゅう)の気は、天地の気と同くして、内外相(ないがいあい)通ず。人の天地(てんち)の気の中にあるは、魚の水中にあるが如し。魚の腹中の水も外の水と出入して、同じ。人の腹中(ふくちゅう)にある気も天地の気と同じ。されども腹中の気は臓腑(ぞうふ)にありて、ふるくけがる。天地の気は新くして清(きよ)し。時々鼻より外気(がいき)を多く吸入べし。吸入ところの気、腹中(ふくちゅう)に多くたまりたるとき、口中より少づつしづかに吐き出すべし。あらく早くはき出すべからず。是ふるくけがれたる気をはき出して、新しき清き気を吸入る也。新とふるきと、かゆる也。是を行なふ時、身を正しく仰ぎ(あおぎ)、足をのべふし、目をふさぎ、手をにぎりかため、両足の間、去る事(こと)五寸(ごすん)、両ひぢと体との間も、相去事(あいさつこと)おのおの五寸(ごすん)なるべし。一日一夜(いちにちいちや)の間、一両度(いちりょうど)行ふべし。久してしるしを見るべし。気を安和(あんわ)にして行ふべし。
意訳
時々、新鮮な外気を吸うことは健康に良いです。鼻から、多く吸い込んで口から少しずつ出しましょう。出す時は、荒くしてはいけません。静かにゆっくり出しましょう。
これを行う方法は、身体を上向きにして、足を伸ばし、目を閉じて、手を握りしめ、両足を軽く十五センチぐらい開いて、両ひじと体も同じくらい開きます。一日に、二回ぐらいでも効果があります。
通解
呼吸は、人の鼻から絶え間なく出入りする息のことです。呼とは息が外へ出ることを指し、内側の気を吹き出す動作です。吸とは息が内へ入ることを意味し、外部の空気を吸い込む動作です。呼吸は人の生気そのものであり、呼吸がなければ生命は続きません。人の腹中に存在する気は、天地の気と同様に内外を通じて流れています。人の天地の気が腹中にあるのは、魚が水中にいるようなものです。魚の腹中の水も内外を往来し、同じ水です。人の腹中にある気も天地の気と同じく、ただし臓腑に集まっていて古くなりがちです。そのため、時々鼻から外気を多く吸い込むべきです。吸い込んだ気を腹中に溜め込んだ後、口から少しずつ静かに吐き出すべきです。急いで吐き出すのではなく、静かに行うことが重要です。これによって古い汚れた気を排出し、新しい清らかな気を吸い込むのです。この行為は「新」と「古」が交代することを指します。この方法を行う際、身体を正しく仰向けにし、足を伸ばし、目を閉じ、手を握りしめ、両足の間隔を約五寸、両ひじと体の間も同じくらいの距離に保つべきです。一日に一回、一晩の間に一回から二回行うことが適しています。長く行うことで効果を感じるでしょう。気を落ち着かせて行うことが大切です。
気づき
以前、友人から、正しい呼吸法を行うと自律神経が整えられる効果があると聞いたことがあります。なんでも、呼吸というのは、自律神経に外部から働きかけられる唯一の方法だそうです。
そういえば、病院で血圧を測る時に、看護婦さんから、大きく息をしてくださいと昔、言われたことがあります。美人の看護婦さんから、言われると余計に血圧が上がりそうでした。邪な気持ちはないのですが、自律神経が勝手に動いたのでしょうか。
【五寸】とは
約15.2センチ。
一両度「いちりょうど」 とは
一、二度。 一、二回。