養生訓117(巻第二総論下)

孫真人(そんしんじん)が曰「修養(しゅうよう)の五宜(ごぎ)あり。髪は多くけづるに宜(よろ)し。手は面(めん)にあるに宜し。歯はしばしばたゝくに宜し。津(つばき)は常にのむに宜し。気は常に練(ね)るに宜し。練るとは、さはがしからずしてしづかなる也」。
久しく行き、久しく坐し、久しく立ち、久しく臥(ふ)し、久しく語るべからず。是労動ひさしければ気へる。又、安逸(あんいつ)ひさしければ気ふさがる。気へるとふさがるとは、ともに身の害となる。

意訳

昔の中国の書物に、長時間歩いたり、長く座ったり、立っていたり、横になったり、長話は良くないと書いてあります。また、長く身体を動かさないと気がふさがるので、適度な運動をしないといけないとも書いてあります。

通解

孫真人は言われています。「修養における五つの宜しさがあります。髪は多く梳くことがよろしい。手は顔にあることがよろしい。歯はしばしばたたくことがよろしい。唾液は常に飲むことがよろしい。気は常に鍛えることがよろしい。鍛えるとは、急がず静かに行うことです。」

長時間歩いたり、座ったり、立ったり、寝たりすることは避けるべきです。なぜなら、長時間の運動は元気を奪い、長時間の休息は気を滞らせるからです。元気が奪われたり滞ったりすることは、どちらも身体に害をもたらします。

気づき

日本人は、世界の人に比べて座っている時間が長いと言われているそうです。長時間の同じ姿勢も良くないと聞いたことがあります。意識して、身体を動かすことも必要かも知れませんね。

修養の五宜とは
「修養の五宜(しゅうようのごぎ)」は、中国の伝統的な教えや哲学において、人間の修養や生活のあり方に関する基本的な原則を指します。これらの宜(ぎ)は五つの良い習慣や行動を表しています。以下に、それぞれの「宜」について簡単に説明します:

宜静: 心を静め、穏やかで安定した状態を保つこと。騒がしい環境や心の乱れから遠ざかり、静かで平和な心を持つことが重要視されます。瞑想や心の修練を通じて内面の平静を求める考え方が含まれます。

宜動: 適度な運動や体操を通じて、身体を活発に保つこと。健康を維持し、気力を養うために、適切な運動や体力づくりが重要とされます。

宜和: 人間関係においては、調和と協力が重要視されます。他者との良好な関係を築き、対話や協力を通じて共に成長することが強調されます。争いや対立を避け、調和のある社会を築くことが目指されます。

宜文: 知識や教養を高め、学問や芸術を愛好すること。学び続け、自分を向上させることで、人間性や精神的な成長を促進します。文化や芸術の鑑賞も含まれます。

宜寝: 充分な睡眠をとること。良い睡眠は健康を維持し、心身のバランスを取るために必要不可欠です。規則正しい生活習慣や質の良い睡眠を重視します。

これらの「宜」は、人間の心身の健康を保ち、社会と調和した生活を送るための指針とされています。伝統的な中国の思想や哲学、道徳教育において、これらの原則が重要視されています。