養生訓134
臍下三寸(せいかさんすん)を丹田(たんでん)と云。腎間(じんかん)の動気(どうき)こゝにあり。難経(なんきょう)に、「臍下腎間(せいかじんかん)の動気(どうき)は人の生命(せいめい)也。十二経(じゅうにきょう)の根本(こんぽん)也(なり)」といへり。是(これ) 人身の命根(めいこん)のある所(ところ)也。養気(ようき)の術つねに腰を正しくすゑ(え) 、真気(しんき)を丹田(たんでん)におさめあつめ、呼吸をしづめてあらくせず、事にあたつては、胸中より微気(びき)をしばしば口に吐き出して、胸中(きょうちゅう)に気をあつめずして、丹田に気をあつむべし。この如くすれば気のぼらず、むねさはがずして身に力あり。貴人(きじん)に対して物をいふにも、大事(だいじ)の変にのぞみいそがはしき時も、この如くすべし。もし、やむ事を得(え)ずして、人と是非(ぜひ)を論ずとも、怒気(どき)にやぶられず、浮気(ふき)ならずしてあやまりなし。
或(あるいは)芸術をつとめ、武人(ぶじん)の槍(やり)・太刀(たち)をつかひ、敵と戦ふにも、皆此(みなこの)法を主(しゅ)とすべし。是事(これこと)をつとめ、気を養ふに益ある術なり。凡(およそ)技術を行なふ者、殊(こと)に武人は此法(このほう)をしらずんばあるべからず。又(また 道士(どうし)の気を養ひ、比丘(びく)の坐禅(ざぜん)するも、皆真気(しんき)を臍下(せいか)におさむる法なり。是主静(しゅせい)の工夫、術者(じゅつしゃ)の秘訣(ひけつ)なり。
意訳
お「へそ」の下に、丹田というツボがあります。ここは、昔から、生命のツボと呼ばれています。この丹田に気を集めて、静かに呼吸をする方法があります。そして、それを、ゆっくり、繰り返します。こうすれば、心が落ち着きます。特に、大切な仕事や緊張する場面では有効です。これは、養生の術の一つです。
通解
「臍下三寸を丹田という。腎間の動気ここにあり。『難経』には『臍下腎間の動気は人の生命。十二経の根本なり』と述べられている。これは人間の命の根源である場所である。気を養う方法は、常に腰を正しく構え、真気を丹田に集め、呼吸を静かにし、事に取り組む際には、胸の奥から微細な気を口から吐き出して、胸に気を集中させず、代わりに丹田に気を集中させることである。これに従えば気が逃げず、胸部が膨れず、体に力が宿る。高貴な人と接する際や重要な局面においても、この方法を守るべきである。また、やむを得ず人と対立する際でも、怒りに支配されず、浮ついた行動を避け、過失を犯さない。
芸術を追求する者や武人は、槍や太刀を用いて戦う者であっても、皆この方法を重視すべきである。この方法を守ることは気を養うために大いなる助けとなる。技術を身につける者、特に武人は、この方法を知らなければならない。また、道士の気を養うための方法や、比丘の坐禅の際にも、真気を臍下に集める方法を用いる。これは静寂を保つ工夫であり、技術者や修行者の秘訣である。」
Regenerate
気づき
私は緊張すると呼吸が浅くなる傾向がありますが、この丹田呼吸を使えば良いのかもしれませんね。今度、試してみたいと思います。