養生訓110(巻第二総論下)
素問(そもん)に「怒れば気(き)上(あが)る。喜べば気緩まる(きゆる)。悲(かなし)めば気消ゆ(きき)。恐るれば気めぐらず。寒ければ気とづ。暑(あつ)ければ気泄(きとどこう)る。驚(おどろ)けば気乱(きみだ)る。労すれば気へる。思へば気詰(きつまる)といへり。百病は皆、気より生ず。病(やまい)とは気やむ也。故に養生の道は気を調(ととのえ)るにあり。
調(ととのえ)ふるは気を和(やわ)らぎ、平にする也。凡(およそ)気を養ふの道は、気をへらさると、ふさがらざるにあり。気を和(やわ)らげ、平にすれば、此二のうれひなし。
意訳
中国の古い医学書に、「怒れば、気が上り、喜べば、気が緩まる。悲しめば、気が消えて、恐れれば、気がめぐらず、寒ければ、気が閉じる。暑ければ、気が漏れ、驚けば、気が乱れる。労すれば、気が減り、思えば、気が結ぶ。」とあります。百病はすべて、気より、起こります。
通解
「素問」には以下のように記されています。「怒れば気が上がり、喜べば気が緩む。悲しむと気が消え、恐れると気が乱れる。寒ければ気を引き締め、暑ければ気が逃げる。驚くと気が乱れ、労すると気が減る。考え込むと気が詰まる。百病は皆、気から生じる。病とは気の乱れである。そのため、養生の道は気を調えることにある。気を調えるとは気を和らげ、平穏にすることである。気を養う方法は、気を減らすことや気を塞ぐことがないことにある。気を和らげ、平穏にすれば、この二つの幸福が訪れる。」
気づき
心、即ち、精神と身体は、一体だということなんですかね。そういえば、脳梗塞などの発作も怒っている時が多いと聞いたことがあります。血圧が上がっているのでしょうか?
「短気は損気」なんですね。
短気は損気(たんきはそんき)とは
短気を起こすと結局は自分の損になるとの意味。短気をいましめた言葉。
「素問」とは
「素問(そもん)」は、中国の古代医学書である黄帝内経(黄帝の医経)の一部で、『素問』という部分があります。黄帝内経は、古代中国の医学の基本原則や診断法、治療法に関する古典的な文献で、中国医学の基礎を築いたとされています。
『素問』は、医学の基本的な理論や原則について論じた部分であり、全篇81篇からなります。この中で、陰陽五行説や気の概念、脈診断、食養生など、中国伝統医学の重要な概念が詳細に説明されています。『素問』は、後の時代においても重要視され、中国医学や東洋医学の基礎として継承されています。
黄帝内経(こうていないきょう)とは
黄帝内経(こうていないきょう)は、古代中国の医学の基本原則や診断法、治療法に関する重要な古典的文献です。正確な起源は不明ですが、一般には紀元前3世紀から紀元前2世紀にかけての時期に編纂されたとされています。黄帝内経は、「内経」の部分が『素問』(すもん)と『霊枢』(れいすう)の二つに分かれています。
素問(素問経、黄帝内経素問): 医学の基本的な理論や原則について論じた部分で、全81篇からなります。陰陽五行説、気の概念、脈診断、食養生などが含まれています。
霊枢(霊枢経、黄帝内経霊枢): 体の構造と機能について詳しく説明した部分で、全81篇からなります。経絡や経穴、臓腑の働きなどが詳細に記述されています。
これらの文献は、のちの時代においても重要視され、中国医学や東洋医学の基礎として広く受け継がれています。黄帝内経は、中医学(中国伝統医学)の根本文献であり、東洋医学の発展に大きな影響を与えました。