養生訓10

ひとり家に居て、閑(しずか)に日を送り、古書をよみ、古人の詩歌を吟じ、香をたき、古法帖を玩び、山水をのぞみ、月花をめで、草木を愛し、四時の好景を玩び、酒を微酔にのみ、園菜を煮るも、皆これ心を楽ましめ、気を養ふ助なり。
貧賎の人もこの楽つねに得やすし。
もし、よくこの楽をしれらば、富貴にして楽をしらざる人にまさるべし。

意訳

独りで、静かに時を過ごし、名著を読み、和歌を諳んじ、香をたき、山水を眺め、月花、草木を愛し、四季の景色を楽しみ、酒を少し、たしなみ、庭の野菜を煮るのも、みな自分の心を楽しませるには十分なことである。
貧乏でも、この楽しみならいつでも出来る。
もしこの楽しみを知っていれば、お金が無くても、この楽しみを知らない人よりは、はるかに幸せだと思う。

通解

一人で家にいて、静かに日々を過ごし、古い本を読み、古代の詩や歌を楽しんだり、香りを楽しんだり、古い書道の作品を楽しんだり、自然の山や水を眺め、月や花を楽しんだり、草木を愛で、四季の美しい景色を楽しんだり、少しだけ酒を飲み、庭先で育てた野菜を煮るなど、これらの活動は心を楽しませ、気を養うのに役立ちます。

貧しい人でもこのような楽しみ方は常に手に入れやすく、物質的に豊かでなくても豊かさを感じることができます。もし、これらの楽しみ方をよく知ることができれば、富や名声を持っていない人よりも幸福を実感することができるでしょう。

現代においても、一人での静かな時間を過ごし、自分自身を豊かにする活動に取り組むことは重要です。古典文学や芸術、自然の美しさに触れることで、心の平穏や充実感を得ることができます。また、簡素な暮らしや自然との調和を大切にすることも、心の安定や満足感につながるでしょう。

私たちは、物質的な富や社会的な地位に執着するだけでなく、内なる喜びや心の充足を追求することも大切です。真の豊かさは、心の中にあり、日々の小さな喜びや感謝の気持ちを大切にすることから生まれます。

「古法帖」(こほうちょう)とは

「古法帖」(こほうちょう)とは、古典文学や書道の分野で用いられる用語です。古法帖は、古典文学のテキストや、書道の修行や模写のための手本として用いられる書写物のことを指します。

古典文学の古法帖は、日本の文学史や詩歌、仏教文学などの古典文学の古い原典文書を指します。これらの文学作品は、日本の文学や文化の基盤を築いたものであり、学術的な研究や文学の教育で使用されます。

書道の古法帖は、文字や筆致の練習のための手本として用いられる書写物です。これには、中国や日本の古典文学から抜粋された文章や詩句、格言、仏教の経典の一部などが含まれます。書道家は、これらの古法帖を模写して文字の美しさや筆致を向上させ、書道の技術を磨くことがあります。

古法帖は、文学の研究や書道の修行において非常に重要な役割を果たしており、文化的な伝統や歴史を受け継ぐ手段として尊重されています。

 

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